入江泰吉のポジフィルム(約10センチ×12・5センチ)。被写体と色彩をそのまま写しだすが、劣化すると右のように青色や黄色が抜けて真っ赤な状態に=2024年4月21日、奈良市高畑町、富岡万葉撮影
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 写真家・入江泰吉(1905~92)の作品をデジタルデータで保存する取り組みを、入江泰吉記念奈良市写真美術館(同市高畑町)が進めている。同館が所蔵するフィルムは約15万点。先行事例が少ない中、劣化を進める時間に工夫で立ち向かう。

 奈良の仏像や風景、万葉集で歌われた花など、大和路を追い続けた入江。作品を市に寄贈し、92年に同館が開設された。同館は年数回の展覧会を開いているが、公開できるプリント(用紙現像)済みの作品は2千点だけ。他はポジフィルムのまま残り、今はプリントできない。

 なぜか。ポジフィルムは、色や明暗が反転する茶色のネガフィルムと違い、被写体の色彩がそのまま写しだされる。プリント時の色見本になるが、数十年経つと劣化して色が抜けてしまう。

 写真はただプリントすればいいのでなく、写真家が意図した色彩に調整することが肝心だ。やみくもにプリントしても「入江の作品」にはならない。

危機感を抱いた職員たちが取りかかったのは

 手が出せないが、劣化も止め…

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